宿便って本当にあるの!?宿便の正体は
宿便は、便秘や残便感があり、お腹の不快に悩む女性にとって、もっとも関心のあるキーワードのひとつです。
宿便について、「長い年月、腸内にヘドロのようにこびりついて排泄されず、腸を汚している老廃物」といったイメージが一般的なようです。
宿便とは一体どんなものなのでしょうか?そして宿便は本当に存在するのでしょうか?
今回は、医学的所見に基づいた宿便の見解や、私自身の臨床経験や実際にクリニックで行った12000件以上の腸内洗浄の場で観察した便を分類した、3つの宿便タイプについてお話します。
宿便という言葉は、医学用語にないのか?
滞留便と宿便の違いは?
宿便の3つのタイプと対処法
まとめ
宿便という言葉は、医学用語にないのか?
結論からいうと、宿便という用語は医学的な場面でも使われています。
以下のように、実際に「宿便」という用語を用いた病名は存在します。
症状が悪化すると、腸の粘膜が破れてしまう‘穿孔’や、溜まった便塊が原因で腸が詰まってしまう‘腸閉塞’や、腸が詰まることで起こる腸の炎症‘大腸炎’といった状態を引き起こすことがあります。
宿便性大腸穿孔
硬い便の塊が詰まって蓄積することによって、腸の粘膜の血行不良が起き、粘膜が腐ることで腸壁が破れて腸に穴が開いた状態
宿便性腸閉塞
硬い便の塊が詰まって大量に蓄積することによって、腸管が塞がれて閉ざされてしまった状態
宿便性閉塞性大腸炎
硬い便の塊が詰まって腸粘膜が腐ったり腸管が塞がれたりすることにより、腸内に炎症が起きている状態
医学的な論文でみられる宿便は、おもに結腸曲やS状結腸、直腸に長期間停滞した便塊のことを示しています。
滞留便と宿便の違いは?
滞留便とは
私達が食事をすると、口から肛門まで9mある消化管という1本の管を移動しながら、消化・吸収・排泄と進みます。肛門から排泄される時間は約72時間以内といわれています。
何らかの原因で大腸の機能が弱り、排泄されず腸内に滞留する便を、滞留便と呼んでします。
長い時間、腸内に便が滞留すると、腸の内容物が腐敗や異常発酵をし、悪臭を伴う腸内ガスが発生するだけでなく、便が硬くなり排泄が困難になります。
その結果、腸内の悪玉菌が増えて腸内環境が悪化します。
宿便とは
はっきりとした宿便の定義は不明ですが、看護用語では「宿便(しゅくべん、fecal impaction)とは、腸内に長期間残存している便」のことと解釈されています。
また、宿便について研究をした論説によると、宿便とは、「通常の排便では排泄できない消化管に内容物が貯留していること。上部消化管と下部消化管に穀食が停滞した状態」と解釈されています。
ただ、「長い年月、腸のヒダの中にヘドロのようにこびりついて、排泄されず腸を汚している」といった状態は、現実的ではないでしょう。
なぜならば、腸の粘膜の代謝はとても速く、2日おきに生まれ変わっているといわれているからです。
宿便の3つのタイプ
ここからは、実際にコロンハイドロセラピー(腸内洗浄)をしている最中に流れ出てくる便を参考に、宿便のタイプについてお話したいと思います。
宿便のパターン1(滞留便)
それは、大腸の奥や直腸の奥にある滞留便です。
通常、大腸の奥(上行結腸)には下水のような食べ物カスが混じった液体が入っています。
でも、便が出ない、出ても少量の日が続くなどの時、この右側のウエスト辺りにある大腸(右結腸曲)付近に、固形の便が詰まったように溜まることがあります。
ガス腹と激しい腹痛が起こり救急車で運ばれた経験のある方が、腸内洗浄に来ることがあります。お腹のレントゲン写真や腹部CT検査の結果、医師から「宿便が溜まっていますよ、便秘ですね!」と言われ、とても恥ずかしい思いをしたと告白してくださる方がとても多いのです。
そして、実際にお腹を触ると、おへその右側からウエスト付近(右結腸曲)に、ゴツゴツとした固形の物を触っているような感触があります。
以前に仕事で胃のバリウム検査の介助をした時に、本来なら塊の便があるはずのない右側の大腸(右結腸曲)付近に、石垣のように便が詰まっている画像を何回か見たこともあります。
一般的に医療従事者が認識している「宿便」とは、この滞留便を示しているのではないでしょうか。
宿便のパターン1の対処法
便秘を自覚している方で何日も排便がない時は、おへその右側にゴツゴツと何か触れるものがないかお腹を押してみましょう。腸マッサージも滞留便の排泄に効果的です。
宿便パターン2(未消化便)
それは、胃と大腸の間にある「小腸」といわれる場所に滞っている内容物です。小腸は主に栄養分を吸収する場所で長さにして5~6mくらいの細い管です。
小腸は一定の規則的なリズム(分節運動)で動いて、消化と栄養分の吸収をおこなっています。
でも、大腸の動きが悪くなることで、小腸内に内容物が停滞しギッシリと詰まりお腹が硬くなっている方が多く見受けられます。
数日間、断食をしたことで、黒っぽいヘドロのような臭い便が大量に出てスッキリした、という場合は、このタイプの宿便でしょう。
宿便パターン2の対処法
普段から食べ過ぎている、夜遅くにたくさん食べる傾向があるなど、が思い当たり、胃からおへそにかけてパンパンに硬く張っていている方は、「小腸に未消化物が停滞している」可能性が高いでしょう。
食べ過ぎの方にはプチ断食などで胃腸を休息させることも、宿便解消の有効なケアです。
宿便パターン3(腐った腸粘膜)
それは、長期間の絶食や断食が続いた時にみられる排泄物です。ごくまれに、こげ茶色のヒモのような長い便が排泄されることがあります。
長期間の絶食断食をしたあとなどにも出てくるこの排泄物をみた人たちは、きっとこのヒモのような物体をみて、「これが本当の宿便だ」と思うかもしれません。
実は、この茶色のヒモのような排泄物の正体は、脱落した腸粘膜です。
もう少し詳しくお話しましょう。
私たちの腸には約500種類、重さにして約1.5kgの腸内細菌が住みついています。私たちが健康でいられるのは腸に住み着いている腸内細菌のおかげです
この腸内細菌は私たちが毎日食べる食物をエサにして生きています。食べものカスを発酵させ自分たちの栄養素を作ったり、分泌物を出して腸の粘膜を動かしたりしています。
ところが、この栄養素がストップすると腸の中で生息している腸内細菌が餓死してしまいます。
以前、病院で臨床勤務をしていた時、食事が食べられなくなり点滴栄養に切り替えていた患者さんが、時々茶色いヒモのような粘膜を排泄していました。
栄養分を補給されていない腸粘膜はやがて腐敗して、ある時ゴソっと一気に脱落してしまうのです。
宿便パターン3の対処法
食物を食べられない状態が続いて、細長いヒモのような粘膜がでてきたら、腸内細菌の危機的状態だといえるでしょう。
長期間の断食を自己流で行うことは、危険な行為なのでやめましょう。
まとめ
宿便って本当にあるの?の答えは、「宿便の定義」がはっきりと定められていないので、明確な結論は出ないのかもしれません。
でも、「宿便」という言葉は、”腸内環境が悪化して老廃物の排泄能力が低下している状態”をイメージするのに、とても分かりやすい表現なのではないでしょうか。
宿便というキーワードを使って、患者さんに分かりやすく腸の状態を解説する頭の柔らかさが医療従事者にも必要だと、私は考えています。
(参考文献)
看護roo
参考文献:宿便についての一考察,小澤他,日東医誌Kanpo Med vol.65 No,4, 309-312,2014